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12-1.減給の制裁として給与の10分の1を6ヵ月間行うことは違法か?

職務上の重大な怠慢により会社に損害を及ぼした従業員がいます。解雇とするのも酷ですので、相当な減給の制裁をしようと思います。公務員の場合1年間の減給が可能と聞いていますが、給与の10分の1を6ヵ月減給することは可能でしょうか。

確かに、国家公務員の場合の減給は国家公務員法、人事院規則により1年以下の間棒給の5分の1以下で可能となっています。しかし、一般の事業場については労働基準法が適用されるため、同法第91条の減給の制裁に関する制限規定の規制を受けることになり、国家公務員等と同じ制裁をすることはできません。

労基法第91条によれば、減給は「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされています。そして、この「1回の額」と「総額」の関係については、次のような行政解釈が示されています。

「法第91条は、1回の事案に対しては減給の総額が平均賃金の1日分の半額以内、又一賃金支払期に発生した数事案に対する減給の総額が、当該賃金支払期における賃金の総額の10分の1以内でなければならないとする趣旨である。」つまり、減給の制裁をする場合は、事案の重大性や会社の被った損害額の大小に関係なく、制裁対象となる事案が1件である限り減給の額は平均賃金の半額を超えてはならないのです。その事案についての減給の制裁を数回に分けて行うとしても、その合計額は平均賃金の半額以内でなければならず、賃金総額の10分の1までできるわけではありません。設問のような減給はできません。

上記の通達にもあるように、賃金総額の10分の1まで減給できるのは、減給制裁の対象となる事案が何回も続けて行われた場合といった特殊な事例の場合に限られます。懲戒処分としての減給については、このように特別の規制が加えられており、しかも公務員等とはその規制内容が異なりますので注意して下さい。

12-2.賞与減額と減給の制裁の制限

減給の制裁についての制限は、毎月の定例給与に関する限り理解できないではありませんが、賞与から減額するのであれば、労働者の生活への影響も小さいはずであり、平均賃金の半額である必要はなく賞与の10分の1までは可能と考えられないのですか?

設問の考え方は認められていません。行政解釈では、「制裁として賞与から減額することが明らかな場合は、賞与も賃金であり、法第91条の減給の制裁に該当する。したがって賞与から減額する場合も1回の事由については平均賃金の2分の1、また、総額については、一賃金支払期における賃金、すなわち賞与額の10分の1を超えてはならないことになる」とされているのです。

労基法の減給制裁の制限は毎月の定例給与から減給する場合も賞与から減給する場合も等しく適用されます。制裁対象事案が1つである限り、定例給与からの減給であれ賞与からの減給であれ、いずれも平均賃金の半額を超えてはなりません。少し違うのは、事案が多数である場合の処理です。定例給与からの減給であれば定例給与の10分の1を超える減給は翌月以降に行わなければなりませんが、賞与額が定例給与の何倍かの高額であれば、賞与の10分1まではその月のうちで行うことができることになります。

なお、注意を要するのは、上記の通達でもいうとおり、この規制は本来支払うべき賃金を減給の制裁として減額することに対するものですから、賞与の決定計算システムの中で賞与計算期間中の業務成績等によって算定された支給すべき賞与額自体が他の労働者よりも低いといったことは、上記の制限を受ける減給の制裁には該当しないということです。

12-3.降職・降格・昇給延伸は減給の制裁か

降職、降格あるいは昇給延伸といった懲戒処分の種類を定める就業規則を見かけますが、これらはいずれも賃金の減額や本来上がるべき賃金が上がらないということであり、実質的に減給の制裁と異ならないのではないでしょうか。

確かに、降職や降格、昇給延伸、昇格延伸といった措置は結果としての賃金の減額や期待された賃金の増額がなされないという意味では、減給の制裁と似た機能を発揮することになります。しかし、労基法がこれよりも重い懲戒解雇その他の懲戒について特別の規制を設けていないのにもかかわらず、特に減給の制裁についてのみ特別の規制を設けたのは、過去において減給の制裁(罰金制)が、特に著しい弊害を生じたという事実によるものであるとされており、この減給の制裁とは、こうした本来支払うべき賃金の1部を制裁措置として支払わないこととする行為に限定されているのです。

こうしたことから、減給の制裁として労基法の規制を受ける行為であるか否かは、その実態に基づき慎重に判断しなければなりません。これに関し、過去の行政解釈では、降給に関して「従前の職務に従事せしめつつ、賃金額のみを減ずる趣旨であれば、減給の制裁として法第91条の適用がある」とし、降格について、運転手から助手への降格の結果、「賃金の低下は、その労働者の職務の変更に伴う当然の結果であるから法第91条の制裁規定の制限に抵触するものではない」とした例があります。

また、昇給停止については、「就業規則中に懲戒処分を受けた場合は昇給せしめないという欠格条件を定めるときは、これは法第91条に該当しない」とした例があります。このように、減給の制裁に該当するか否かの判断の1つのポイントは、本来支払われるべき賃金が支払われているか否かということになります。

なお、こうした労基法91条の規制は、制裁(懲戒)としての減給に適用されるものであり、ここで述べた降職や降格も、それが制裁として行われる場合に減給の制裁として法律の規制を受けるかという観点から述べています。これに対し、いわゆる職能資格制度において降格が予定されている場合に行われる合理的な降格や、職制上の一定職位にある者がその職位に不適格と判断され人事権の発動として行われる降職のような場合は、それが、「制裁(懲戒)」として行われるものでない限り、ここで問題とする労基法の減給の制裁の規制の対象となるものではありません。

12-4.出勤停止は7日以内でなければならないのか

懲戒処分としての出勤停止(賃金不支給)の期間については、労基法では何も規定がないのに、行政指導で7日以内とするようにいわれるということですが、そうした通達があるのですか。

制裁としての出勤停止はその期間中の賃金を支給しないとするのが一般ですが、こうした出勤停止と労基法第91条の制裁規定の制限との関係について述べた通達があります。これによれば、出勤停止による賃金の不支給は法第91条とは無関係であるとされていますが、加えて、「出勤停止の期間については公序良俗の見地より当該事犯の情状の程度等により制限のあるべきことは当然である」としています。現行労基法の行政解釈としては、これがあるのみであり、出勤停止の期間を何日以内とするべしといった通達はありません。

それでは、7日という日数はどこから出たかというと、これは労基法制定前の工場法時代の解釈例規に「出勤停止は、職工の出勤が工場の秩序を乱し又は事業の安全を危くする場合又は本人の反省を促すに必要な場合等やむを得ざる場合に於いて之を認むるも7日を限度とする」というものがあったことによるものと思われます。このように、現在では出勤停止の期間を直接規制する法律条文や行政解釈はありませんが、一般には7日ないし10日程度と定める就業規則が圧倒的であり、あまり長期にわたる出勤停止の制裁は、前述の通達にもあるように、その間の賃金の支給の有無その他出勤停止により労働者の被る不利益と使用者側の必要性等の要素如何によっては、その効力を否定される可能性もありますので注意してください。

12-5.遅刻・早退による賃金減額と減給の制裁

遅刻や早退により勤務しなかった時間に対する賃金をカットするのは減給の制裁に該当しないと思いますが、時間数に関係なく一律に、遅刻早退3回につき賃金日額をカットするのは減給の制裁に該当しないのでしょうか。

賃金と就労・不就労の場合の対応関係は、必ずしも各企業一律ではなく、各企業の賃金制度の定めによるところが大きいものです。ことに、いわゆる月給制の場合に一部不就労があった際の賃金の取扱いには、各社多様なものがあります。いわゆる完全月給制として、毎月の定例給与については遅刻・早退・欠勤による控除を行わないものもあれば、欠務時間数に応じて賃金を減額するものまで、その中間には、一定時間一定回数まではカットしないとするものもあり、その取扱いは一様ではありません。

しかし、これらはいずれも労働した部分に対する賃金は支払われており、労働しなかった部分に対応する賃金の取扱いをどうするのか差異にすぎず、もとより労基法第91条の問題は生じません。しかし、遅刻早退3回で賃金1日分のカットをするという場合、遅刻等の時間数にもよりますが、1日分の所定勤務時間数を欠務していないのに、遅刻等が3回となると1日分の賃金が減額されるという場合が生じると考えられます。

このような取扱いは、いわゆるノーワーク・ノーペイの原則によって説明することはできません。行政解釈も「遅刻・早退の時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされ、法第91条に定める減給の制裁に関する規定の適用を受ける」としています。また、「30分単位において30分に満たない遅刻・早退の時間を常に切り上げるという趣旨であるならば、労働基準法第91条の減給の制裁として取扱わなければならない。

この場合就業規則中に特に制裁の章等を設けてその中に規定する等の方法によって制裁である旨を明らかにする方が問題を生ずる余地がないから適当である」としています。

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